東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)7号 判決
一、アルミニウム製蓋を扱うための特別な構成の有無について
甲第一号証(本願特許公報)、甲第四号証の一・二(第一引用例)を検討すると、つぎのとおり認められる。
(一)、蓋を直接支持面に落下させることについて
本願特許請求の範囲には蓋を支持面まで移動する手段については何ら限定するような記載はない。原告のいうような「その上面は支持面と連なるようにし」「蓋を支持面に沿つてチヤツク座上に移動する」などの記載も原告の主張する構成を裏付けるものとはいい難い。第一引用例においても回転チヤツク36上面がテーブル33と連なる位置をとつたとき、蓋をテーブル33に沿つてチヤツク座より移動し、他の蓋をテーブル33に沿つて回転チヤツク上面に供給スライド35で移動するようになつており、前記記載と差異がない。
(二)、チヤツク座の上面を平坦面としたことについて
本願特許請求の範囲にはチヤツク座の上面の構成について何ら限定していないので、原告の主張は採用することができない。
(三)、制限板による保持について
本願特許請求の範囲によれば、原告の主張するように、「蓋が前記送り出し手段によつてチヤツク座の方向に供給されたとき支持面に対し蓋を保持するため前記支持面を覆う制限板」と記載されているから、支持面上を蓋が移動する間、制限板が支持面を覆う構成により蓋を保持することが認められる。しかしながらこの点に関しては、第一引用例においても、アンダカツト壁48を有する受け取り室46で蓋を供給スライド35上に一旦受けとり、その後供給スライドが後退し、蓋がテーブル33上に落下して位置し、これが供給スライド35によりチヤツク上に給送されるのであるが、蓋はその前後にわたつて受け器45のアンダーカツト壁48および溝47により覆われて案内されるので移動中の保持は確保され、実質的には本願の構成およびその効果と格別の差異は認められない。
(四)、制限板の端部をできる限りチヤツク座に近接させたことについて
チヤツク座と制限板との距離を本願発明のように「チヤツク座の半径よりもやや大きくしてチヤツク座に近接」させることは当業者が容易にできるものであることは、原告も争わないところであり、第一引用例に示された実施例で受け器45の端部がチヤツク座に近接している態様は実質的に前記構成と差異はない。また蓋がチヤツク座と同心となる点において本願発明と第一引用例との間に差異が生ずるものと認めるに足りる証拠は見出しがたい。
(五)、支持面やチヤツク座をできる限り凹凸のないような面に連ねたことについて
本願特許請求の範囲においては、チヤツク座の上面を支持面と連なるようにした以外に特に限定はしていない。のみならず、第一引用例においてもテーブル33に蓋の移動に対して障害となるような凹凸があれば不都合であることは、本願発明の場合と同様に自明のことであり、その前後の構成自体から凹凸があるとしても、蓋の移動に対して影響のない程度のものであると認められる。またその実施例の図示からみても少なくともチヤツク36の上面の周辺はテーブル33とほぼ同一平面となるよう連つているし、チヤツク上面とテーブル33とを蓋の受渡しの際に同一平面に位置させることは、蓋の移送をなめらかに行わせるため当然行われることにすぎない。そうすると、本願と第一引用例との間にはそのような構成において実質的に差異があるものとは認めがたい。
(六)、ちなみに第一引用例においても磁石は特許請求の範囲中には記載されておらず、その実施例をみてもテーブルの一部にしか存在しないし、前記認定のように蓋の移動中の制御は主として受け器45によるものと認められるので、補助的なものにすぎないものと認められる。従つて磁石の作用を受けない蓋に適用する場合、これが不要であることは明かであり、これを除去することは何ら発明力を要せずできたものと認められる。
以上のように本願発明には原告の主張するようなアルミニウム製蓋を扱うための特別な構成は何ら認められない。
二 結び
そうすると、本件審決には原告の主張するような判断の誤りはないから、本訴請求は失当として棄却せざるを得ない。
〔編註〕 本願発明の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。
本願発明の要旨
蓋の支持面、前記支持面の開口部に設けその上面は支持面と連なるようにし内方に真空用開口部をもつ弾性材料で作られたチヤツク座を有する円形真空廻転チヤツク、前記チヤツク座を支持する垂直シヤフト、前記チヤツク座とシヤフトを廻転させる手段、前記チヤツク座の上方で垂直に位置するノズル、ノズルに対し接離するよう移動させるためチヤツク座に垂直往復運動を与える手段、チヤツク座の上面が支持面と連なる位置をとつたとき蓋を支持面に沿つてチヤツク座から移動し他の蓋を支持面に沿つてチヤツク座上に移動するように蓋を送り出す前進部、凹所、押し出し指先からなる手段、蓋が前記送り出し手段によつてチヤツク座の方向に供給されたとき支持面に対し蓋を保持するため前記支持面を覆う制限板とからなり、前記制限板をその末端とチヤツク座の中心との間の距離がチヤツク座の半径よりもやや大きくしてチヤツク座に近接して終端させたことを特徴とする密封蓋ライニング装置
審決理由の要点
本願発明の要旨は前項記載のとおりである。ところで米国特許第二四四二一七九号明細書(以下「第一引用例」という。)には、「テーブル33(本願の蓋の支持面に相当―以下同様に本願の相当部分を記載する)、前記テーブル33(支持面)の開口部に設けその上面はテーブル33(支持面)と連なるようにし内方にチヤツクの軸孔101(真空開口部)をもつ浅いくぼみ100(チヤツク座)を有する回転チヤツク36(円形真空回転チヤツク)、前記浅いくぼみ100(チヤツク座)を支持するスピンドル102(垂直シヤフト)前記浅いくぼみ100(チヤツク座)とスピンドル102(垂直シヤフト)を回転させる手段120・121、前記浅いくぼみ100(チヤツク座)の上方において垂直に位置するノズルN、ノズルNに対して接離するよう移動させるため浅いくぼみ100(チヤツク座)に垂直往復運動を与える手段105、浅いくぼみ100(チヤツク座)の上面がテーブル33(支持面)と連なる位置をとつたとき蓋をテーブル33(支持面)に沿つて浅いくぼみ100(チヤツク座)から移動し他の蓋をテーブル33(支持面)にそつて浅いくぼみ100(チヤツク座)上に移動するように蓋を送り出す供給スライド35の中間部(前進部、凹所)、取除き用指先39(押し出し指先)からなる手段、蓋が前記送り出し手段によつて浅いくぼみ100(チヤツク座)の方向に供給されたときテーブル33(支持面)に対し蓋を保持するため前記テーブル33(支持面)を覆う受け器45(制限板)とからなり、前記受け器45を、その末端と浅いくぼみ100(チヤツク座)との間の距離が、浅いくぼみ100(チヤツク座)上に蓋を吸着して上下できるような距離となるようにした密封蓋ライニング装置」が記載されている。
また米国特許第一四三〇〇五〇号明細書(以下「第二引用例」という。)には、「真空室を備えた加工品を支持するための座20を、曲げ易いバツキング要素であるレザー等で形成した」ものが記載されている。
そこで本願の発明と第一引用例とを比較すると、第一引用例のチヤツク座が弾性材料で形成されていない点およびチヤツク座と制限板との距離が、第一引用例ではチヤツク座上に蓋がある場合に蓋の端部と制限板の端部とがきわめて近接するような距離とするのに対し、本願発明はチヤツク座の中心と制限板末端との距離が、チヤツク座の半径よりやや大きくしてチヤツク座に近接しているとする点で相違する。
この相違点について検討すると、加工品を真空吸着するチヤツク座を弾性材料で形成することは、第二引用例に示されているので、第一引用例のチヤツク座を弾性材料で形成することは、第二引用例から当業者なら容易にできたものと認められる。そして制限板が蓋をチヤツク座上に送りこむ作業を制御するものである以上、なるべくチヤツク座に近接して設けられねばならないし、しかも蓋を吸着したチヤツク座の上下運動に支障がなく、また蓋を損傷しない程度に離されていなければならないことは当然であるから、チヤツク座と制限板との間の距離を、本願発明のようにすることは、当業者であれば容易にできたものと認められる。
また請求人(原告)が相違点としてあげる本願の装置で製造される蓋がアルミニウム製で、形状が非対称である点、および第一引用例がアルミニウムに効果のない磁石を蓋の支持面に設けている点について検討すると、本願発明の要旨には、アルミニウム製蓋を扱うための特別な構成は何も備えていないし、第一引用例が蓋の支持面に磁石を設けている点も、蓋の支持面に何も設けていない普通のものに、よりよく蓋を制御できる構成を付加したものであるから、そのような付加された構成を削除することは、何ら発明力を要しないものと認められる。
結局本願発明は、当業者が各引用例から容易に発明することができたものと認められるので、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない。